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フィルムに生命を吹き込む |
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| 監督 ポップ・アリヤー・チュムサイ(監督) |
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![]() 2000年2月のある日、私は山岳民族の60名の子どもたちを昼食に招待した。彼らは北部タイにあるチェンマイ市から貸し切りバスで、20時間もかけて、生まれて初めて海を見る旅をしてきた、卒業目前の中学生たちだった。 この「海を見る旅」は子どもたちの通うメートー学校の校長先生が発案したものだった。校長先生は、都会から遠く離れたタイ北部の山の学校で学ぶ生徒たちが、広い視野を持って成長してほしいと考えてきた。生徒たちは中学3年の卒業試験に無事合格すれば、海を見に行く卒業旅行のチャンスを得られるのだ。 子どもたちは、勉強のかたわら、野菜を作って売ったり、ニンニク農家の手伝いをしたりしてお小遣いを稼ぎ、旅行費用を作った。 家族の中でそれぞれの民族の言葉で会話して暮らしている山岳民族の子どもたちにとって、タイ語を勉強するだけでも大変なことなのだ。 そして、長い長い時間をバスに揺られ、ついに子どもたちは海を見た。 自分の暮らす村以外の世界がどれほど大きいかを自分自身の目で確かめたのだ。 子どもたちは今まで、限りなく広がる海に太陽がオレンジ色に光り輝く光景なんて見たことがなかった。小さな貝殻の中に隠れて生きる小さな生物も、見たことがなかった。 子どもたちは、走った、笑った、飛び回った、我を忘れて波間に身を委ねた。 「ふたつのお日様を見たのは、村では僕が初めてだ」14歳の少年が海水を入れたビンを抱えて叫んだ。村に残っている弟へのお土産として持ちかえるのだと。ふたつのお日様というのは、海の向こうに輝く太陽と水面に映った太陽のことなのだ。 子どもたちの喜び様は、私自身の喜びともなり、その日、その場にいることで、私は満ち足りた幸せを感じたのだった。 子どもたちはこのときの体験をただ感激して見ていただけでなく、その瞬間の匂い、味わい、感触を、大切に感じ楽しんでいるようだった。 バスが到着すると、子どもたちはバスから飛び出し、走り出して、海水に指をつけて、それが本当にしょっぱいのか味わい確かめた。 シーフード・チャーハンに入っている海老やカニをゆっくり味わって食べた。できることなら山奥で暮らす家族に持って帰りたかったようだ。 子どもたちは心から人生の喜びに浸っていた。驚きと感動に満ちた人生。子どもの目で見る人生。これこそが、人生の本来の姿だろうと、私はこのとき感じた。 ひとりの大人として私はいつも何かを見過ごしたり、忘れものをしてきたような気がするのだ。 大人はいつも将来のことで悩んだり、過去のことで悔やんだりしている。大人は今この瞬間の美しさが見えなくなっているのだ。大人はその時折の世間のしがらみから逃れられずにいるのに、子どもたちにとって、人生とはその瞬間、この今を生きることなのだ。 あの日から5年の歳月を準備に費やしたすえに、私は幸運なことに、優れた映像作家であるニサ・コンスリに出会ったのだ。彼女は私の友人として、また共同制作者として、同じ志でこの映画づくりに関わった。 このドキュメンタリーフイルムに生命を吹きこみ、この映画を観る人々が子ども時代の心をふたたび思い起せるようにと。 |
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Biography 制作者紹介 |
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Areeya Chumsai (アリヤー・チュムサイ)監督![]() 生まれも育ちも米国。1993年、ミシガン大学ジャーナリズム科卒業。 USA トゥデイ、オークランド・トリビューン、ランシング・ステート・ジャーナルなどの出版社に勤務の後、アジア・アメリカ・ジャーナリスト協会の奨学基金を受賞。 95年から97年にかけて、タイにおいて数種の雑誌のコラムニストを勤める傍ら、バンコク大学とチュラロンコン大学で"コラムの書き方"講座の講師。1977年、過去5年間にわたる自分のコラムを編集した最初の本「ポップスピーク」を発表。全国的なベストセラーになり、20週間ベストセラーのトップを維持。その後、2冊目の本「ブーツキャンプ」を発表。これは自身の4年にわたる陸軍訓練時代の話。陸軍では少尉に任官。その間、チュラロンカロ陸軍学校と王立陸軍学校で英語を教える。同年、3冊目の本「Thiunking Loud」を上梓。 1999年、社会的貢献と指導力を評価され、タイ人女性として初めて「トウキョウ・クリエーション・アワード」を受賞。2002年、4冊目の本「Tadpole」を発表。その後、ニューヨークに行き、映画シナリオを勉強。2003年に韓国釜山映画祭にニサとアリヤー共同制作の映画シナリオの出品を果たす。 2005年11月、釜山映画祭で「デック 子どもたちは海を見る」が企画賞を受賞。女優、写真家としても活躍中。 |
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Nisa Konsri (ニサ・コンスリ)監督、撮影、編集![]() 1968年バンコック郊外のサムート・ソンクランで生まれる。タマサート大学のマスコミ科を奨学生として卒業。卒業後、サイアム・スタジオプロダクションで4年間アシスタント・ディレクターとして勤務。その後、フリーランスに転向し数多くの広告宣伝、音楽ビデオの制作にあたる。 2001年、バンコク・フィルム製作のタイ国の歴史を題材にした映画「Renaissance」でアシスタント・ディレクターに復帰。2002年、韓国釜山映画祭認定映画「One Night Husband」のアシスタント・ディレクターをつとめる。その後、12年の映画制作の経験を生かし、映画シナリオ制作に転出。同時にフリーランスでの広告制作も継続している。 その後、アリヤーにチェンマイ北部の山岳民族の子どもたちの調査への参画を求められ、アリヤーとの共同制作で「Innocence」(日本語タイトル「デック 子どもたちは海を見る」)を作り、ドキュメンタリー・フィルムでのデビューを果たす。 |
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